◆プログラム
韓国から多数の専門家をお招きし、「韓国の外交戦略と日本」と題するシンポジウムを開催した。今回のシンポジウムは、日韓国交正常化50周年を記念して開催された。
まず、李根教授は東アジア国際秩序の進化過程との関連で中国の台頭と議論した。過去の帝国主義秩序は農業経済と勢力圏を基盤とする秩序であった。しかし、1945年以来、東アジア国際秩序には主権国家の概念が導入され、開かれた国際経済システムへ変遷を成し遂げた。李教授によれば、中国の台頭が過去の朝貢体制復活をもたらすのではないかと懸念されているが、その可能性は極めて低いという。中国は開かれた国際経済の恩恵を受けており、日本と韓国も主権国家としての地位を獲得しているからである。李教授は、こうした観点に基づいて、韓国の対外政策はこれからも中国が現存の国際秩序を受け入れていくよう社会化することであるとし、その協力相手として日本を高く評価した。
金暎浩教授は、朴槿恵政権の対外政策について報告を行った。まず、金教授は、近年の韓国の対外政策を論じるにあたって、朴槿恵大統領個人の歴史観、国際政治観に焦点を当てすぎるため、均衡のとれた分析が行われていないとし、国内政治や国際構造も念頭に入れて分析する必要があると述べた。米韓の両首脳は朝鮮半島の統一は非核化·民主主義·市場経済の下で行われるべきであると同意した。また、韓国はアメリカのリバランス政策に積極的に支持した。金教授によれば、こうした一連の動きは、韓国がこれからも米韓同盟を自国の対外政策の軸とする旨を明らかにしたことであるという。続いて、対中政策に関しては、北朝鮮核問題の解決にあたって、中国の影響力を積極的に利用し、中国との経済協力拡大を図るなど、既存の海洋外交のみならず、中国を対象とする大陸外交を積極的に推進していると論じた。対中協力を強化する中で韓国の対中傾斜論が指摘されている。金教授は、韓国の周辺諸国で対中傾斜論が議論されていることについて問題意識を示した。韓国はそれを払拭するための論理を展開し、アメリカ主導の自由主義的国際秩序を維持するために、より積極的な役割を果たすべきであり、その観点から韓国にとって対日協力の重要性を強調した。
続いて報告内容に関する討論が行われた。まず、添谷芳秀教授は、韓国はミドルパワー協力の観点で自国のみでは対応できないという現状認識の下で、日本が協力相手として浮かび上がっていると指摘した上で、中国に対する日韓の共同対応が求められているが、歴史問題をめぐる感情問題が両国協力を妨げていると主張した。続いて、倉田教授は、勢力圏の確保を望む中国とルールを重視するアメリカとの間で、国際政治秩序の在り方をめぐって対立が深まっていると指摘し、日韓関係もその影響を受けざるを得ないと主張した。
第二セッションの報告を担当した洪贊植論説委員は、韓国の国定教科書問題について報告した。2003年から検定制度であった韓国の歴史教科書が国定化となった。野党は、国定化について、親日や維新を擁護する試みであると批判の声を上げている。洪委員は、国定教科書問題は近代化勢力を中心とする与党と民主化勢力を中心とする野党との政治ヘゲモニー争いの文脈で置かれていると論じた。とりわけ、洪委員が強調したのは、国定教科書の採択には韓国の建国と経済発展を高く評価する大統領個人の歴史観が反映された点である。洪委員によれば、国定化に対する国民の反発にも関わらず、朴槿恵大統領の強力な意志でことが運んだという。こうした分析に基づいて、洪委員は、今回の国定教科書のように、大統領の歴史観が韓国の対外政策にも影響を及ぼすとし、近年の日韓関係の悪化もその例として挙げた。
続いて全鎮浩教授は、米韓(新)原子力協定について、報告を行った。2010年10月に原子力協定を改定するための交渉が開始され、2015年6月に新たな協定が締結された。協定改定にあたって、韓国政府は使用済み核燃料の再処理やウラン濃縮の自立性を確保することを最重要視した。全教授は、新協定では韓国国内の核燃料を利用した研究開発活動やアメリカとの協議の下で使用済み核燃料の移点が可能になった点を評価した。しかし、韓国に対する規制緩和に焦点を当てたあまり、原子力協力に対する米韓の共通ビジョンが不在し、国民的な議論がなされなかった点を問題点として挙げた。
第二セッションの報告に対する討論を担当した西野純也教授は、韓国政治における保守と進歩の争いに注目した。西野教授によれば、韓国政治を分析するにあたって、韓国内のイデオロギー分布に注目すべきであるという。続いて権五盛教授は、国定教科書の採択によって、学問の自由と議論の多様性が抑制される恐れがあると指摘した。
*センターによる整理