◆プログラム
神戸大学の大西裕教授をお迎えして韓国の福祉政策と国内政治をテーマに定例セミナーを開催した。
まず、大西教授が韓国は福祉への支出が極めて低い点を問題意識として提示した。豊かな経済や高い生活水準や民主化など先進国の域に入った韓国であるが、GDP対公的支出の比率は異様に低いのである。一般的に、主な原因としてIMFによる親自由主義改革という外部要因が指摘されてきた。IMFが、金融支援に対する条件として政府規模の縮小、金融市場の開放を掲げたため、社会への政府の介入度が低くなったという議論である、この議論が、ほぼ通説となっているが、大西教授は別の見方が必要であると主張した。それは保守派と進歩派の対立で象徴される韓国政治のダイナミズムである。
続いて、大西教授は、保守派と進歩派対立という視角をもって韓国政権別の福祉政策の様子について報告を行った。まず、金大中政権は貧困の社会的責任を自覚し、社会民主主義福祉国家へ舵を切った政権であった。例えば、公的扶助を救貧から普遍的な権利化とした。また、世界銀行からの指摘にも関わらず、公的年金に社会民主主義的な要素を維持した。このように、福祉政策に普遍主義の論理を取り入れ、階層性の低下を試みた金大中政権であったが、保守派の反発を受けて公的支出の絶対的不足状況に変化は生じなかった。盧武鉉政権の時期には、参与福祉の逆説の様子を呈することとなる。地方を福祉サービスの主役と位置付けた盧武鉉政権は、参加民主主義を制度化することによって福祉を拡充しようとした。しかし、地方の団体は保守的な傾向を持っていたため、むしろ制約を受けたのである。大西教授は、保守派と進歩派の対立構図は、保守派の大統領が政権を握った時期にも相変わらずであると主張した。例えば、李明博政権が掲げた能動的福祉に対し、進歩派は反対の姿勢を示して存在感を示した。こうした分析の上で、大西教授は、朴槿惠政権の福祉政策をめぐって保守派と進歩派の対立構図が改めて浮上する可能性を指摘した。朴槿惠政権は韓国型福祉社会構想を打ち出すなど一時期左旋回の傾向も見られたが、最近になっては自由主義への回帰しているからである。
*センターによる整理