実施報告
【セミナー】

2013.10.02第一五回定例セミナー「日韓関係改善のために-現状と展望-」

日 時2013年10月2日(水) 午後5:30-7:00
場 所慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎5階ホール

 

◆プログラム

報 告 :李元徳(韓国∙国民大学)
司会・討論 :西野純也(慶應義塾大学)

 

韓国∙国民大学の李元徳教授を招き、「日韓関係改善のために-現状と展望」と題する定例セミナーを開催した。

報告は、日韓関係65年体制の50年史を総括することから始まった。李教授は、北東アジアの国際システム、日本国内、韓国国内、両国のパワーバランスを挙げて、これらの要因がいかに日韓の経済∙安全保障関係、歴史問題に影響を及ぼしてきたのかについて、議論を展開した。冷戦期の日韓関係は、アメリカの東アジア戦略の下で経済的な協力関係を築き、アメリカを仲介とした安全保障問題に重きを置きつつ、歴史問題には注意を払わなかった。歴史問題、領土問題がなくなったわけではないが、韓国の軍事政権は、日本から技術、資金導入をより重視したため、歴史問題と領土問題による対立を抑えてきた。しかし、冷戦が終焉してから陣営意識が希薄になり、以前より両国関係は水平化な関係へ移行した。しかも韓国は民主化を成し遂げた。この中で、歴史問題が表面化し、現状では2000年代に入ると両国関係の中心課題となりつつある。このような分析を踏まえて、李教授は、日韓関係における既存の求心力が低下し、歴史問題のような遠心力が強く働いていると述べた。

日韓関係を考えるにあたって、両国を取り巻く国際環境の変化も重要であることは言うまでもない。李教授は、反共論理の弱化、中国の台頭、韓国のミドルパワーとしての登場、日中におけるパワートシフトなど東アジアの国際情勢は非常に大きく変動しており、日韓関係もその文脈で置かれていると述べた。また、このような東アジア情勢の変動の中で、韓国は中国との経済、外交関係を深めており、日本では、韓国の対中政策を懸念する声も高い。李教授は、韓国の中国への貿易依存は非常に高く、また、朝鮮半島問題への対処にあたって、北朝鮮に対して強い影響力を持っている中国との戦略的な関係は非常に重要であることを強調した。要するに、韓国にとって中国との安定した関係は選択の問題ではなく、必須である。

次に、李教授は、両国の国内政治に焦点を当てた。まず、李教授は民主主義、市場経済の共有など日韓の国内体制の収斂現象を指摘しつつも、両国関係では、民主平和論で説明できない部分が多いと論じた。李教授によると、むしろ民主化が進行するにつれ、日韓関係の葛藤が大きくなり、問題が複雑化しているという。例えば、活発な市民社会の動きが政府の統制力を弱めている。特に、韓国は日本の国内政治が右傾化していると見做しており、それに対する日本政界と市民社会の批判勢力が低下していると懸念している。そのような認識は、日本リベラルの高齢化、若い世代の歴史認識に対する希薄な贖罪認識によってさらに強まっている。そこで、李教授が強調したのは、日韓政府レベルでのバックチャンネルの喪失につながった点であった。冷戦時代においては、韓国の軍事政権と日本の政界、経済界の要人が、意思疎通を図り、対立と摩擦を管理するメカニズムが働いた。しかし、現在の日韓関係において、そのような特殊性は事実上なくなったのである。

このように日韓関係に影響を及ぼす構造的要因を考察した上、李教授は、安部∙朴槿恵政権における日韓関係の現状について、議論を行った。まず、現在の日韓関係の悪化の起源は、李明博大統領の竹島上陸(*作成者注:韓国では、獨島訪問と称している)と天皇発言である。新しい政権が成立したにも関わらず、前政権期に悪化した関係が続いているため、最小限の接触しかできないのが現状である。とりわけ、韓国では安部首相の政治的躍進を日本全体の右傾化の兆しであると見做している。李教授は、憲法改憲、集団的自衛権など安保政策の大転換、歴史認識の後退を判断根拠とし、安部政権が率いる日本に対し、不安を抱いており、マスコミはそれを煽っている感があると論じた。

李教授は、現在の日韓関係の問題が以前から存在していた点を考慮すると、何よりも問題であるのは、相手国に対する認識の枠組みが変わっていることであることを指摘した。多様な要因を捉えず、日本の右傾化、韓国の小中国化などステレオタイプのイメージで相手国を判断するということである。単純すぎるイメージを持って、自分は受け身の反応であり、相手側が先に挑発すると思い込んでいる。例えば、韓国は領土問題に対する日本の発言を問題視している。また、日本は領土問題に対する韓国の過剰な対応に反発する。李教授は、韓国は、戦後日本の現実主義外交を理解しつつ、日本という国家全体を右傾化の一枚岩として捉える傾向を控えるべきと主張した。

李教授は、悪化の一路を辿っている日韓関係への改善策として首脳会談の開催を提言した。その過程で安部政権は、歴史問題に対して以前の日本政府が表明してきた談話を継承する意思を表明しなければならないと主張した。また、慰安婦問題と個人請求件問題の解決にあって、政府が全面に出て歴史問題を争点として扱うことは事態をより悪化させる恐れがあるので、政府だけではなく市民社会、専門家も含めた共同機構、いわゆる1.5トラックの形で解決策を探り、2015年まで合意点を見つけ出すことを提言した。このような動きは、日韓関係の未来ビジョンの提示にほかならない。金大中-小渕「パト―な―シップ宣言」はより先例である。李教授、98年のパトーナ―ジップ宣言を継承、発展させ、新しい関係像を建てなければならないと主張した。米中の間で日韓両国が、未来志向の協力シナリオを打ち出すことによって、歴史問題を越えて共同協力の領域を見つけ出す必要があると主張し、報告を締め括った。

報告の後、西野純也の討論が行われた。西野教授が歴史問題が日韓関係の議論を支配している状況を問題点として取り上げた。もちろん、日韓関係において、歴史問題は非常に重要な問題である。西野教授が強調したのは、歴史問題以外にも国民交流、安全保障関係、経済関係など、多層な側面を持っている点であった。相変わらず、経済関係は日韓関係の動力である。また、実務レベルで日韓、日米韓の安全保障協力は着実に進んでいることを見逃すべきではないと主張した。

 

*センターによる整理

 

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