◆プログラム
ジョージワシントン大学のYoung C. Kim教授を招き、「北朝鮮の捨て身の対米挑戦とアメリカの対応」を題として定例セミナーを開催した。
まず、Kim教授は数カ月間、続いている北朝鮮の好戦的な言動について、報告を行った。まず、国内的要因として、金正恩の脆弱な政権基盤を指摘した。Kim教授によると、金正恩が先軍政治へ忠実な姿勢を示すことで、軍部掌握を強硬にしようとしているという。また、対外的要因としては、日米韓を圧迫し、アメリカを対話に引きずり込み、制裁の解除、核保有国地位の認定、アメリカの敵対政策の転換、平和協定の締結を勝ち取ろうとすると論じた。Kim教授は、二つの要因が複合的に作用していると指摘した上、北朝鮮は戦略的な目標を持っており、全力を挙げて追求していることを見過ごすべきではないと主張した。北朝鮮は、非核化を強要するのをやめるよう、また、アメリカの敵対政策を放棄させるよう、迫っているのである。
次に、Kim教授は、北朝鮮の外交、軍事的目標と経済政策との関連性について議論した。北朝鮮は経済大国を目指し、農業、軽工業の発展を試みたものの、成果は乏しかった。また、金正恩政権は核能力と経済の並行発展路線を掲げているが、後者の目標を達成するためには、外国の資本、人的交流が必要である。Kim教授は、北朝鮮は経済問題を解決するために、米朝平和協定を結び、アメリカとの敵対関係を精算する必要性を強く認識していると述べた。
それでは、北朝鮮の一連の行動に対し、アメリカはいかなる対応を取っているのか。Kim教授は、次の四つに整理した。まず、韓国防衛の決意表明である。朝鮮半島に軍事力を展開し、抑止力を高めている。第二に、条件付き対話再開の表明である。北朝鮮が正しい選択をする場合、対話を再開する用意があると述べながら、韓国政府の対話提案を支持している。第三に、韓国側に冷静な対応を求めている。アメリカは、北朝鮮が軍事的挑発する場合、韓国に釣り合いのとれた対応を取ることを促している。第四に、中国との協力強化である。北朝鮮に対する中国の影響力を活用し、朝鮮半島の安定を管理する。
そして、アメリカの今後の対応について、Kim教授は、ますます対話へ舵を取るはずであると論じた。オバマ政権の内部では、対話で北朝鮮の非核化を成し遂げることはできないとの意見が主流を占めていると指摘しつつも、北朝鮮の核能力進展を阻止し、南北朝鮮の軍事衝突を避けるためにも、一定水準の対話は必要であるからである。このように対話の必要性を論じたものの、Kim教授は、それと実際に対話が再開されるのかは、別の問題であると強調した。北朝鮮が、アメリカが要求している対話再開の条件に、応じる可能性はほぼないからである。このような分析の上、Kim教授は核問題を取り扱う六者会談よりも、外務大臣レベルでの国際会議、地域協力問題を協議するフォーラムの形で対話を再開するのを提言した。この枠組みの中で二者、三者、四者の対話を始めることはできる。そして、核問題には触れず、様々なテーマを取り扱うことも可能であると述べた。
報告の後、小此木政夫教授の討論が行われた。小此木教授が強調したのは、危機の演出の面において、明らかな差があることであった。二十年前には、北朝鮮は準戦時体制を敷き、アメリカ政府内ではサージカルアタックが真剣に議論されるほど、武力衝突の可能性が高まっていた。しかし、小此木教授によると、現在の危機は、二十年前と比べてレトリック合戦の様子を見せており、実際の武力衝突の可能性は低いという。労働党中央委員会で、核武装よりも経済建設を先に出したことから分かるように、国内に向けては、農業、軽工業の振興を唱えているのが現状である。
しかし、軍事、外交の面における深刻さを見過ごすことはできない。数年内に核とミサイル能力が完成する可能性が高く、何らかの対応に追われている。それでは、いかなる対応をとるのか。この問いについて、小此木教授は、クリントン政権の後半の経験から教訓を得るべきであると主張した。オバマ第一期政権が戦略的に忍耐する中で、北朝鮮は二回の核実験、三回のミサイル実験に踏み切った。また、ブッシュジュニア政権は、北朝鮮を悪の枢軸と脅したが、最後はテロ支援国家から解除するなど、一貫性が欠如していた。しかし、クリントン政権期間で、北朝鮮の原子炉を止めさせ、さらなる核開発を阻止するなど、二つの政権に比べて、成果を手に入れたからである。
*センターによる整理