実施報告
【セミナー】

2013.01.25第十三回セミナー「朴槿恵政権の誕生と韓国政治」

日  時2013年1月25日(金)14:00~17:15
場  所慶應義塾大学三田キャンパス 東館6階G-SEC Lab
使用言語日韓同時通訳

 

◆プログラム

13:40 開 場
14:0014:05 開会の挨拶
添谷芳秀(現代韓国研究センター長)
14:0515:35 第1セッション
司 会 小此木政夫(九州大学)
報 告 陳英宰(延世大学):朴槿恵政権と国内政治の展望
討 論 平井久志(共同通信客員論説委員)
15:4517:15 第2セッション
司 会 小此木政夫(九州大学)
報 告 全在晟(ソウル大学):朴槿恵政権と対外関係の展望
討 論 添谷芳秀(慶應義塾大学)
17:15 閉 会

 

陳英宰教授と全在晟教授を招き、「朴槿恵政権の誕生と韓国政治」を題としてセミナーを開催した。セミナーの趣旨は、朴槿恵政権誕生の意義を国内政治、対外関係の観点から検討し、その展望を論じることであった。

陳英宰教授は、まず、第18代大統領選挙全般を振りかえることで、報告を始めた。全体有権者の約4千万の票の中で、75.8%が投票し、朴槿恵候補は110万票の差で、当選した。過去の拮抗した選挙戦と比べて、大きな数値ではあるものの、高い投票率を考慮すると、110万票は僅差であった。選挙の構図は、朴槿恵-文在寅-安哲秀の三者構図であったが、単一化の過程の中で、最後には朴槿恵-文在寅の両者構図に再編された。単一化過程は、葛藤の末、安哲秀の候補事態であっただけに、実質的に単一化は失敗したとの評価もできる。ここで、陳教授が強調したのは、朴槿恵-文在寅の二者構図になってから、嶺湖南の間の地域対立の構図が浮き彫りになった点であった。そして、陳教授は、文在寅に単一化されてから、朴槿恵候補の勝利が予想できたと論じた。朴槿恵候補を支持する嶺南地方の有権者の数が、文在寅を支持する湖南地方より多いからである。

その後、陳教授は、朴槿恵誕生以後、国内政治の展望を報告した。まず、政治改革の問題に関して、多数の韓国国民は、政治改革を求めていると指摘した。、このような情勢分析に基づき、陳教授は政治改革のテーマとして、次の五つを取り上げた。第一に、政党公認制度である。候補公認過程に国民と支持者たちが参加する機会を設けることで、政党の公認権を国民および支持者たちに返すことである。第二に、国会議員数の調整である。陳教授は、議員数における比例代表、地域代表の比重を調整する可能性を指摘した。第三に、大統領選挙の決選制度の導入である。決選制度とは、過半数の得票者もしくは第一次投票で上位を占める候補間、最終投票を行う制度である。陳教授によると、今度の選挙のように、政党候補、無所属候補が同等な持ち分をもって大統領の単一化に臨むと、政党政治の発展に阻害をもたらすとの観点から、決選投票の導入が議論される可能性があるという。第四に、大統領の重任如何である。これは改憲にあたる問題であるだけに、慎重に議論を重ねてから公論化されると思われる。第五に、大統領の権力構造の問題である。つまり、帝王的大統領への権力集中という弊害を防止しようとする試みに関して、議論が活発になると思われる。これについて、陳教授は、改憲も一つの方法であるが、現在の憲法の下で運営の秒を生かして権力の分散を図ることができると主張した。例えば、大統領が総理を任命し、一定の権限を委譲する「責任総理制」を施行することである。このような分析の上、陳教授は、朴槿恵当選人が責任総理性を導入することを明らかにしたとし、その帰趨を注目する必要がると強調した。

続いて、陳教授は朴槿恵候補と文在寅候補の選挙公約を比較検討した。陳教授が注目したのは、両者間の政策差別性であった。朴槿恵を中道右派、文在寅を中道左派に分類した陳教授は、対数与党の公約執行に対する野党の反作用という構図の中、与野党の力学関係が形成されると論じた。そして、今年の再補欠選挙は、与党に対する国民の評価を伺い知ることができる機会であるだけに、朴槿恵政権が推進力を得るか否かは、再補欠選挙の結果次第であると論じた。

最後に、陳教授は、今度の大統領選挙を見ると、地域対立、理念対立、世代対立、階層対立が改めて明らかになったと述べた。このような葛藤と亀裂を乗り越えるため、朴槿恵当選者は「国民統合」を打ち出し、父である朴正熙の経済神話を再現しようとしている。朴槿恵の政権の今後の行方に注目したいとの言葉で陳教授は報告を締めくぐった。

 

討論に臨んだ平井久志記者は、陳教授の公約分析に対して問題意識を提起し、議論を盛り上げた。平井記者によると、度合いの差はあったものの、朴槿恵候補と文在寅候補の公約は同じ方向性を志向したという。格差問題の克服、福祉問題という課題に対応しながら、中道派の票を狙うために、政策の方向性が収斂したということである。この分析に基づき、平井記者は、朴槿恵候補の変化を強調した。5年前には、経済成長と輸出拡大を主張した朴槿恵候補が財閥規制、福祉拡大を公約に導入し、李明博大統領と差別化を図った反面、文在寅候補は既存の盧武鉉政権のイメージを引きずった。つまり、朴槿恵候補の果敢なモデルチェンジが選挙勝利の重要な要因であったということである。

以上のように、朴槿恵当選人のモデルチェンジを評価しながらも、平井記者は問題点を指摘することを忘れなかった。任期中、政治的危機に直面した際には、国民との対話と疎通が求められるが、信念型の政治家である朴槿恵当選人は、その点が不足していると指摘したのである。このような分析の上、平井記者は、政策だけではなく、政治スタイルにもモデルチェンジができるのかという不安と期待が混在しているとの意見を述べた。

全在晟教授は、第18代の選挙過程について、外交安保、北朝鮮問題は注目を集めなかったと分析した。格差問題、福祉などの国内政治問題が注目を集めた反面、外交安保政策の重要度は低く、北朝鮮のミサイル発射も大きな変数ではなかった。しかし、現在の韓国が直面している国際環境を考慮すると、国政運営に取り組む段階になってから、その重要性は増すはずと全教授は予想した。

選挙期間中、朴槿恵候補と文在寅候補が掲げた外交政策公約については、東アジア戦略、グローバル戦略の側面において、大きな違いはなかったと分析した。注目すべきなのは、前回の選挙と比べると、李明博候補はグローバル次元の外交戦略を標榜したが、今度の選挙では、具体的な戦略は提示されなかった点であった。外交安保環境はいつも流動的で、相手国は異なる価値観を持っている。それから起因する挑戦要因に対処するためには、体系的な外交安保戦略が求められると強調した全教授は、一旦、現在の李明博政権の路線が続くとの予想を述べた。そして、対北朝鮮政策の比較検討に関しては、朴槿恵候補は文在寅候補の政策とも違いを見せながらも、李明博大統領の政策とも差別化を図ったと論じた。韓国国民が、北朝鮮の挑発には断固たる対処を求めながらも、対話の必要性を実感していおり、朴槿恵当選人もそれを認識している。このような分析の上、北朝鮮政策において、以前の政権とは異なる新しい試みがあると論じた。

続いて、全教授は、選挙後の対外関係動向と対北朝鮮政策の議論について、報告を行った。まず、対中関係に関して、北朝鮮問題において、中国の役割を非常に重要視しており、特使派遣からも分かるように、対中関係の改善に尽力している。そして、対米関係については、原子力協定、作戦統帥権移譲など、懸案問題をめぐって立場の相違はあるものの、戦略的協力を強化する方向に向かっていくと論じた。問題は、このような対米戦略と対中戦略をいかに調和させるのかである。この分析の上、全教授は、この難しい課題に対処できる具体的な戦略を提示することを提言した。そして、対日関係に焦点を当てると、全教授は、選挙過程の中で、朴槿恵候補は、歴史問題に対して国益の観点から対処し、東アジアの文脈で新しい関係を模索すると発言をしただけで、日韓関係に関して大きな枠組みを提示しなかったと述べた。また、今まで新しい大統領の誕生後、すぐ日韓関係が修復する傾向を見せてきたが、日本にも新しく安部政権が誕生しており、その政策動向を確認する必要性があるため、関係修復には時間がかかると予想した。このような慎重論を披歴しながらも、全教授が、日韓は戦略的に協力する必要性があることを強調した。

対北朝鮮関係に関して、核心公約としては、挑発防止、主権侵害に対する安保政策、小さい統一から大きな統一構想がある。ここで、全教授は、北朝鮮との対話路線など積極的な関与を主張しながら、核問題の解決、過去の挑発に対する謝罪など、保守的なアプローチも取っている点に注目した。両者をいかに調和するのか、北朝鮮の核問題が悪化する中、対話を推進できる条件が整うのか、この課題をいかに解決するのか。これは、朴槿恵当選人が掲げる「朝鮮半島信頼プロセス」の成功のカギとなる問題である。この分析の上、全教授は、南北が信頼を前提としている点を問題として取り上げた。信頼は紆余曲折を経て積み上げていく必ものであり、それを基盤とした上、政策プロセスを推進できるようになる。しかし、南北は相手が先に譲歩し、信頼を見せることを要求しているということである。また、どこまで、信頼関係を築いて行くのかという中長期的な戦略が明確ではないことも取り上げた。全教授によると、韓国の政権ごとに対北朝鮮政策を象徴するブランドネームがあり、その分、具体性もあったが、朴槿恵当選人は、その点が不足しているという。朝鮮半島の周辺国は、北朝鮮問題に積極的に取り組む動機を持たず、現状維持に安住している。何よりも、核問題が悪化し、国連安保理による制裁が議論されているだけに、関与政策を推進しにくい状況である。このような情勢であるからこそ、周辺国を説得し、政策の推進動力を確保するためには、政権の初期段階で、中長期的な対北朝鮮戦略を打ち出さなければならないと全教授は主張した。

全教授の報告の後、添谷芳秀教授の討論が行われた。添谷今日中は、まず、日韓関係について、正しい歴史認識を持ち、主権侵害に対しては断固たる対処をとるという朴槿恵政権の立場は、韓国のどの政権もそのような立場を取るはずであると論じた上、この問題と切り離して戦略的協力の領域を掘り起こすことを提言した。協力関係を構築することで、日韓関係の難しさをある程度、封じることができるということである。

日韓関係に触れた上、添谷教授は、米中の狭間で韓国が展開しようとする外交は何であり、そのような戦略を建てるのができるのかという問題意識を提示した。北朝鮮問題、朝鮮半島の統一構想にあたって、中国を排除しては形にならない状況である。韓国は対米、対中関係を両立させる統一した外交戦略を立てられるのか。その外交戦略は何であろうか。添谷教授は、 日本も韓国と同じ課題を抱えていると強調した上、日韓が問題意識を共有しながら、共同戦略を築くことを提言した。

 

*センターによる整理

 

 

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