実施報告
【セミナー】

2011.05.27第十回「北朝鮮問題をめぐる最近の情勢」(2011年5月27日)

日 時2011年5月27日(金)午後5:00~7:00
場 所慶應義塾大学三田キャンパス 東館6階G-SEC LAB

 

◆プログラム

報 告: 尹徳敏(外交安保研究院)
倉田秀也(防衛大学校)
討 論: 金基正(延世大学)
宮岡勲(慶應義塾大学)
司 会: 西野純也(慶應義塾大学)

 

尹徳敏教授(外交安保研究院)と倉田英也教授(防衛大学校)を招き、「北朝鮮問題をめぐる最近の情勢」と題として、第10回定例セミナーを開催した。

尹徳敏教授は、後継問題と核兵器開発を中心に北朝鮮の情勢および展望を分析した。まず、近年北朝鮮が軍事行動を頻繁に行っていることを指摘し、これは既存のパターンから外れていると論じた。今までの北朝鮮は軍事行動を起こした上でそれを交渉の梃子として利用し、その間2~3年間は沈静化する傾向を見せてきたからである。さらに1960年代末、数々の軍事行動を通して金正日が後継者として浮上した点を指摘し、近年の軍事的挑発は後継体制を構築していく中で軍を掌握するための措置であると解釈した。そして、天安艦事件後の緊張が緩和し、南北および米朝関係が対話モードに向かっていく最中に延平島砲撃事件が起こった点について北朝鮮は盤石な後継体制の構築という国内要因を優先していると分析した。

北朝鮮の核兵器問題については主に中朝関係に焦点を当てて報告をした。そこでは、中国は北朝鮮の安定的な後継体制のために何らかの役割を果たそうとしており、北朝鮮の核兵器開発阻止よりも核拡散の管理に重きを置きつつあるとして中国が対北朝鮮政策を転換したとの分析を示した。加えて、核拡散の管理への政策転換はアメリカ側からも窺われることを指摘した。

最後に、今後の展望として米中が北朝鮮の核管理に重点を置いていることから、北朝鮮の核武装を抑えることは困難になったと論じた。その上で、6者会談をウラン濃縮と保有済みの核兵器問題も包括的に取り扱う枠組みへと強化することを提案した。

倉田秀也教授は去年北朝鮮の軍事行動は対米関係の文脈で理解すべきであり、その論理は過去の延長線上にあると分析した。北朝鮮の国内情勢は軍事行動との相互関係は説明できるが、因果関係は説明できないからである。2009年4月から北朝鮮は6者会談を否定して対米正面突破を図ったが、また6者会談に復帰しようとしていると論じた。6者会談から離れては米朝との対話を進めないからである。また、倉田教授は北朝鮮はアメリカとの対話を模索する際に軍事行動を起こす傾向があるとし、この観点から黄海のNLL問題は北朝鮮にとって都合のいい材料であると分析した。

倉田秀也教授は、まず哨戒艦「天安」撃沈と延坪島砲撃事件の背景として、後継者問題などの北朝鮮の国内要因は、相関関係はあるものの、因果関係を直接説明するものはないとの基本的立場をもう一度強調した。倉田教授によれば、北朝鮮による黄海上の軍事攻勢は、冷戦終結後に限っても、1999年の「第1回延坪海戦」から10年以上の「歴史」をもつものであり、それらは北方限界線(NLL)の「虚構性」を主張し、米国を平和協定に誘導しようとする点では共通していたと述べ、二つの軍事攻勢も基本的には同様の文脈に属するとの認識を明らかにした。倉田教授によれば、これら軍事攻勢と並行して発表された「1・11平和提案」(2010年1月11日)などの平和攻勢も、対米平和協定を実現しようとする点で共通していると論じた。

これらの平和攻勢には、ミサイル発射、第2回の核実験を強行して6者会談を否定し、「対米正面突破」を図った北朝鮮が再び、6者会談に復帰する意思があることが示唆されている。

倉田教授によれば、これも米国が「戦略的忍耐」の下に北朝鮮との二国間協議を拒絶し、6者会談再開を求める中国と「大国間の協調(concert)」を図ったことによるところが大きいという。しかし、これで北朝鮮が6者会談の規範に順応したわけではなく、「1・11平和提案」でも、平和体制樹立を6者会談の枠内で議論する用意をみせながら、韓国と中国を排した米朝平和協定を望んでいることは明らかである。倉田教授は、韓国が米中「大国間の協調」の中で一定の発言力を確保しようとするのに対し、北朝鮮は米中「大国間の協調」を朝鮮半島固有の問題で自らの発言力を削ぐものと受け止めており、「1・11平和提案」にもそのような認識をみることができると論じた。

また倉田教授は、北朝鮮が2010年4月21日に発表した「朝鮮半島と核」と題する外務省備忘録を取り上げた。そこで倉田教授は、それまでNPTの核兵器国が非核兵器国に対して与える消極的安全保障(NSA)を不法に核保有した北朝鮮が用いていることを指摘した。また倉田教授は、この文書で北朝鮮が朝鮮半島非核化をオバマのいう「世界の非核化」の一部とし、米国が「世界の非核化」を進めない限り、朝鮮半島非核化も実現しないとして、核保有を既成事実化しようとする意図を指摘した。また、この文書でも米朝平和協定が主張されていることから、核保有の既成事実化の上に平和体制樹立が構想されていることも指摘した。

報告の後、金基正教授と宮岡勲教授が討論者として議論を行った。金基正教授は2009年における北朝鮮の行動は、アメリカ、韓国の圧迫政策への対応であると解釈した。加えて、93年以後、北朝鮮内では核武装を主張するグループと核開発を交渉カードとして利用することを主張するグループが存在しているとの前提に立ち、日米韓と北朝鮮のそれぞれにおいて交渉派が政策の主導権を握っていた場合、政治的な進展があったと分析した。

金教授はさらに、核問題は北朝鮮問題の核心的事項ではあるがすべてではないと指摘し、北朝鮮という国家を総合的に捉える必要性を強調した。その観点から、6者会談を核問題のみならず平和体制、クロス承認、地域安保体制、経済支援など様々な争点を並行して議論する枠組みへの発展させることを提案した。

このような過程を通じて、短期的には不安定性を増していく北朝鮮を管理し、長期的には改革、開放へ導いて国際政治の枠組みの中に軟着陸させることができると論じた。

宮岡勲教授は、国際政治理論の観点からいくつかの論点を提起した。まず、金正日の先軍政治における核兵器の位置付け、国内経済の安定度、軍や官僚組織の利益、イデオロギー的な正統性などの観点から、北朝鮮が核兵器プログラムを放棄することはあり得るのかとの論点を提示した。そして、北朝鮮は中国の過度の影響力を懸念し、均衡措置をとるとの分析に対して、北朝鮮がますます中国への依存度を強めている状況の中で対中均衡措置をとることは実際には難しいのではないかとの見解を示した。また、コンサートという表現は国際政治理論の観点から見れば、他国の利益への相互的な配慮、地域の公共財である秩序と安全を提供する大国間の協調体制を意味するが、米中協力がこれほどのレベルに達しているのかという問題意識を提起し、「米中コンサート」という表現を用いることに慎重な姿勢を見せた。

 

*センターによる整理

 

 

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