実施報告

2010.11.09第八回「韓国外交の戦略課題」(2010/11/9)

日  時2010年11月9日(火) 14:45~18:30
場  所慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール
使用言語日韓同時通訳

 

◆プログラム

1415 開 場
14451630 1セッション「グローバル・コリアへの戦略」
司会・討論 添谷芳秀(慶應義塾大学)
報  告 辛星昊(ソウル大学)「韓国の多国間外交」
阪田恭代(神田外語大学) 「安保環境への対応とビジョン」
 討  論 金基正(延世大学)
佐橋亮(神奈川大学)
16451830 2セッション「北朝鮮とどう向き合うのか」
司会・討論 小此木政夫(慶應義塾大学)
報  告 全在晟(ソウル大学) 「南北関係への新たな視点」
朱宰佑(慶煕大学) 「中朝関係の現状と展望」
討  論 ピーター・ベック(日立フェロー)
西野純也(慶應義塾大学)

 

 

第1セッション「グローバル・コリアの戦略」

 

辛星昊(ソウル大学)「韓国の多国間外交:李明博政権とグローバル・コリア」

辛星昊報告は、周辺国との二国間外交を伝統的に重視してきた韓国外交が、どのように多国間外交における自国の役割を模索する方向へと変貌していったかを説明し、その意義と限界について分析を行った。

まず、李明博政権は三つの形態で多国間外交を行っていると説明した。第1に、日中韓3国の協力体制の中で、日中の間で架橋的役割を目指している。実際に2011年まで韓国に事務局を設置することが合意されている。第2に、新アジア構想に基づき、北東アジアに集中していたアジア外交を拡大し、非伝統的分野の協力を進めている。第3に、グローバル・コリア戦略で、朝鮮半島に限定していた米韓同盟を戦略同盟へ格上げし、地域と世界平和へ寄与している。その具体例としてソマリア沖の海賊掃討をはじめ、紛争地域に1000人以上のPKOや、再建チームなど様々な形態で活動をしていること、G-20や2012年核サミットを開催するなどグローバルな課題に積極的に取り組んでいることを紹介した。多国間外交に取り組む際の外交資源としては、経済と政治の同時発展を成し遂げた実績から得られたソフトパワーを重視していると分析した。

次にグローバル・コリア戦略の限界として、経済問題が今後起きた場合、国際貢献に対する国民の支持が果たして得られるであろうか、また、次期政権にも受け継がれる戦略であろうかという問題を提起した。さらに、北朝鮮問題が不安定化した場合、多国間外交より同問題への対応に集中しなければならなくなるという問題点も指摘した。今後の課題として、今まで成し遂げてきた経済的、政治的成果をもとに短期的、利己的国家利益の追求を克服し、地球共同体としての繁栄と韓国の長期的国益を調和させるビジョン、また外交戦略を立てる必要性を強調した。

 

阪田恭代(神田外語大学)「北東アジア安全保障アーキテクチャの構築に向けて―グローバル・コリア戦略と日本の課題」

阪田恭代報告は、北東アジアの新たな安全保障環境における、韓国のグローバル・コリア戦略の位置づけに焦点を当てた。

まず、北東アジアにおける安全保障環境に関し、中韓の台頭によって日米韓中の複雑的相互依存が到来し、伝統的安全保障と人権問題などの非伝統的安全保障が交錯する複合な現象が起きていること、領土や資源問題などにも同時対応すべき状況となり、新たな問題に対応するための多国間枠組みが出来上がっていることを指摘した。このように多層的ネットワーク構造は出現したが、依然として制度化は不十分である現状を、同盟(第1層)、6者協議や日中韓サミットなどの枠組み(第2層)、地域制度(第3層)といった多層的な枠組みからなる安全保障アーキテクチャーとして定義した。

次に韓国のグローバル・コリア戦略が目指している「協力ネットワーク外交」が、まさにアーキテクチャー的発想から出てきているものであると指摘した。その理由としては、韓国は同盟と地域協力を同時に進めるために、米韓同盟を戦略同盟に格上げし、中韓・露韓とは「戦略的協力パートナー関係」を構築していること、日本とは「成熟したパートナー関係」を目指していること、さらに日米韓と日中韓関係の構築や、6者協議をベースにして北東アジア協力を制度化する目標を立てていることを挙げた。

最後に北東アジア協力の課題として、日本が米国や韓国のように国家外交安保戦略・ビジョンを策定することをあげた。また、日韓関係の戦略的価値を認識して制度化していくことの重要性を指摘した。日韓が戦略観を共有して6者協議や日中韓会議などに臨む必要性も提起した。その上で、日韓新時代共同研究プロジェクトの報告書に海洋秩序について触れられたことは重要な意味を持っていると締めくくった。

 

第2セッション「北朝鮮とどう向き合うのか」

 

全在晟(ソウル大学)「南北関係への新たな視点」

全在晟報告は、北朝鮮の核問題が新しい局面を迎えていると指摘し、今後新しいアプローチを模索するにおいて考慮するにあたって考慮すべき点を提示した。

まず、李明博政権の「原則に基づいた対北関与政策」に対して、北朝鮮が国内問題により戦略的決断を下さなくなり、その成果をあげることができなかっただけでなく、戦略環境が変化している現在ではその政策的妥当性まで問われていると評価した。戦略環境の変化とは、北朝鮮の後継体制が公式化されたことで、今後その体制が核なしでも維持できるかという政治的問題が浮上したことや、米中関係において勢力均衡的な側面で北朝鮮問題が重視されていることを指している。米国は現状の戦略的忍耐の立場を維持するだろうと予想し、中国に関しては米国中心の東アジア秩序に北朝鮮が吸い込まれていくことを防ぐことに重点を置いているので変化を期待できないと述べた。

このように変化した戦略環境を前提に、北朝鮮問題に対する戦略的アプローチが提示された。まず、北朝鮮の核問題は戦略的な問題であることを南北及び周辺国が共有し、その上で、北朝鮮の将来のあり方に関する勢力均衡的な考慮に基づいた合意が必要となると指摘した。そして、次の段階では韓国が中心となり、北朝鮮の将来のあり方が朝鮮半島だけではなく、周辺国の利益であるとのビジョンを提示していく必要性を提示した。全教授は、今後韓国は核放棄や統一政策よりは、長期的な観点で北朝鮮との共存を想定した青写真を作成し、それを周辺国と共有する協議体を形成することが望ましいと強調した。そして、周辺国が北朝鮮政策に、より一層政策手段を投入するように外交を展開すべきであると指摘した。

 

朱宰佑(慶熙大学)「中朝関係の現状と展望:『党対党』外交を中心に」

朱宰佑報告は、中朝関係を国家対国家の関係で理解する傾向に対して問題提起を行い、両国関係を社会主義国家同士の「党対党」外交という視点で分析を行った。

まず、党対党外交の主な特徴が提示された。第1に、党大会が閉幕された後、その結果を直接報告し合うために人員を派遣している。第2に、党における呼称(肩書)を重視し、儀典に拘らずに意思疎通を図るチャンネルとして活用している。第3に、関係回復の有益な戦略的手段となっている。第4に、互いに不満を公開しない方式で尊重を表す。朱教授は、中朝間の高位級会談を分析し、党対党の交流が活発に行われていると結論づけた。北朝鮮の後継者による訪中が一般的に注目されるが、中国の習近平や胡錦濤も次期指導者に指名された直後に、最初に北朝鮮を公式訪問したことを強調した。そして、次世代指導者の間でも同盟関係は薄れることなく、その意味と価値は共有されており、両国間の首脳会談も党の総書記同士の党対党外交の観点で理解すべであると主張した。2000年以降、金正日は計6回訪中しているが、そのうち5回が非公式訪問であった。同様に胡錦濤も、北朝鮮を公式訪問しても、国賓としての扱いを受けることは一度もなかった。両国における報道からも、党の総書記同士の会談として扱われていることが確認できる。今年8月、長春での金正日と胡錦濤の会談も例外ではなかったと分析した。

最後に今後の展望として、朱教授は両国で共産党が執権を務める限り、中朝関係の正常国家関係化は、経済領域に限定されると述べた。その上で、中国は朝鮮半島における勢力均衡が崩れていると見做しており、北朝鮮が改革開放を通してハードパワーを回復するまで、北朝鮮の核保有でさえ容認するであろうと見通した。

 

 

*センターによる整理

 

 

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