実施報告
【セミナー】

2010.10.19第七回「北朝鮮の後継体制と経済」(2010/10/19)

日 時2010年10月19日(火)17:30~19:00  
場 所慶應義塾大学三田キャンパス 東館8階ホ-ル

 

◆プログラム

報 告: 三村光弘(環日本海経済研究所主任)
討 論: 小此木政夫(現代韓国研究センタ-長)
司 会: 西野純也(同副センタ-長)

 

環日本海経済研究所の三村光弘研究員を招き、「北朝鮮の後継体制と経済」と題して、第7回定例セミナーを開催した。

三村光弘研究員は、経済面に焦点を当て、北朝鮮の後継体制問題を分析した。まず、2010年9月に開催された朝鮮労働党代表者会での党規約の改定を通して、党による指導の強化が行われたと指摘した。青年同盟に対する党の指導強化や、朝鮮人民軍内の党組織の役割を高める内容が補充されたことは、1980年代以前の状態に戻されたように見えるとして上で、その党の当面の目的として朝鮮半島北部で社会主義「強盛大国」を建設することが明記されたことの意味は非常に大きいと強調した。2009年の憲法改正に続いて、それまで掲げられていた社会主義の完全勝利という目標が削除されたことは、当面の政策課題を示していると考えられるからである。ここで社会主義「強盛大国」とは、政治思想大国、軍事大国、経済大国の三つの要素によって成り立っているが、北朝鮮の言い方からすると、前の二つは達成済みで、残るは経済大国建設のみである。この点で三村研究員は、今後経済建設においてより積極的な措置が取られる可能性があると見通した。

次に北朝鮮の経済的現状と今後の展望について分析した。北朝鮮の経済問題は、冷戦終結によって社会主義市場が崩壊したことに起因すると前置きし、その後の経済政策は成長より生き残りに重点が置かれ、未完の改革にとどまっていると指摘した。生き残りから成長へと転じるためには、社会主義市場に代わる資本や外貨の供給源を確保する必要がある。これまで北朝鮮では、社会主義計画経済の枠内で限定的に市場的要素を取り入れ、経済の活性化を図ってきた。しかし、経済が完全に回復しないうちに市場的要素が拡大した状況にある。制御が困難になった実態を制度に取り込む「体制内改革」をさらに進めるべきであったが、北朝鮮が引締めに転じた側面がある。2002年7月の「経済管理改善措置」以降、国営企業の経営自主権がより多くなり、国営企業さえ市場とかかわりをもつようになった。その後市場による副作用を取り除くために、2009年11月に貨幣改革が実施されるようになった。その改革の成功のカギは、国営企業による物の供給にあったが、実際国営企業はその役割を果たせず、結果的には経済を市場と切り離しては考えられない現状が浮き彫りになった。三村研究員は、これらの現状を踏まえ、貨幣改革を実施した際の混乱から得られた教訓をもとに、今後国営企業の役割を再定義する作業が行われるようになるとの見通しを示した。また、国営企業が既得権を維持することより、大きな成長の可能性を見出すことや、政治体制の安定が保証されることが、本格的な市場原理導入の条件になると付け加えた。

最後に、今後の北朝鮮経済を待ち受ける機会と試練について指摘した。まず、社会主義圏が崩壊した1990年代初めから20年間生存してきた、ある種の「成功体験」を克服する必要性が指摘された。そして、経済中心の政策への転換に伴い、経済成長の道筋が立てられることが望ましいと論じた。さらには北朝鮮国内のみならず、周辺国においても、北朝鮮の成長した姿が共有されることが重要であると締めくくった。

 

*センターによる整理

 

 

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