実施報告
【セミナー】

2010.06.15第六回「東アジア共同体再考:『ASEAN+3』か『3+ASEAN』か?」(2010/06/15)

日 時2010年6月15日(火)午 後5:30~7:00
場 所慶應義塾大学三田キャンパス 南館地下4階2B41

 

◆プログラム

報 告: 寺田貴(早稲田大学教授)
討 論 添谷芳秀(東アジア研究所長)
司 会 西野純也(現代韓国研究センター副センター長)

 

早稲田大学の寺田貴教授を招き、「東アジア共同体再考:『ASEAN3』か『3ASEAN』か?」と題して、第6回定例セミナーを開催した。

寺田教授は、東アジア共同体を巡る地域概念は政策・学術上二つの論争があると提起した。一つは「ASEAN3」か、それとも「ASEAN6」かの論争である。東アジアでは地域統合・協力の制度的枠組みとしてはEAFTA(中国主導)とCEPEA(日本主導)が併存するというものであり、何れも政府   を加えた形で今後さらに研究していくフレームワークであると分析しつつも、実際、地域統合は企業レベルでしか進んでいないまま、制度的には何もできていない状態であると説明を加えた。また、市場が非常に大きい中国の台頭が日本を含むアジア諸国の経済成長に繋がっているものの、中国は政治的、軍事的には好ましい方向に出ているわけではないと論じられた。途上国の代表としての中国が西側諸国と異なる政策を取っているため、「ASEAN3」について米国などが懸念を表明しており、日本も「ASEAN3」形成の難しさに言及している。寺田教授は、このような米国、日本などの行動から出てきたのが「ASEAN6」であると指摘した。また、「ASEAN3」は2008年のグローバル危機以降、CMIMの成立とAMRO設置など制度化が充実しているのに比べ、「ASEAN6」は金融協力の機能がついていないため、現在のところ「+6」を使う雰囲気は形成されていないと、付け加えられた。

もう一つの論争は、ASEANの主導か、それとも他の三ヶ国(+3)の主導かという問題である。これまで公式的には議論されたことはないが、2002年から日中韓の間でASEANの主導で東アジア協力が実現できるかどうかが議論されることになったことが指摘された。現在、東アジアサミットの開催権をASEANが握っており、閣僚会議も東南アジア以外の国で開かれるようになったものの、依然としてASEANが主導しており、日中韓三ヶ国首脳はゲスト扱いになっている。日中両国が、ASEAN諸国から日中関係の悪さが東アジア統合に影響を与えると言われる一方で、ASEAN Centrality」についてもASEAN主導の批判者から抗議の声が出てきたと寺田教授は説明した。「ASEAN Centrality」の急速な出現について、寺田教授は、日本とオーストラリアの主張したアジア太平洋共同体論の中でASEAN重視というものがあまり出ていないのがASEANの懸念材料となったのが原因であると主張した。いま一つの理由ついては、米国がASEANに関与し始め、特に米国とミャンマーとの関係のクリアがASEANに自信を深めさせたと、分析した。

その一方で、日中韓関係が好転し、2008年から三ヶ国サミットが定例化するなど、北東アジア地域主義が浮上しつつあると、寺田教授は韓国の中央日報の記事を引用しながら指摘した。しかし、我々はASEAN主導論を議論する一方で、日中韓三ヶ国がまとまっているかどうかについても研究をすべきであると主張した。

そして、寺田教授は、ASEAN主導論に対する疑問点として、タイ、フィリピン、ミャンマーの国内政治の問題を取り上げ、国内政治の不安定性が東アジア地域協力に影響を与える点をあげた。即ち、ASEAN主導論に関する疑問点は外交問題だけでなく、人権、民主主義を巡る国内問題からも議論されることが多いと分析した。また、ASEAN統合について、統合自体は良いことであるが、現在のところあまり進んでいないことを強調した。ASEAN統合の問題点としては、ASEANがFDIと輸出を通じた成長を域外経済に過度に依存し、自らは「+1」相手に一度もFTAを提案したことがなく、貿易円滑度もシンガポール以外の国は非常に低いことが指摘された。

他方、北東アジア主導論が支持される理由については、日中韓三ヶ国は首脳、外務、経済貿易、財務、環境などの分野で大臣会合が開かれており、政府間ネットワークが発達している点があげられた。具体的案件として、三ヶ国がFTAへ向けて動きだしたこと、CMIMの総額1200億ドルのうち8割を三ヶ国が優遇しあうことによって、金融面でかなり日中韓の存在力が出てきたことが取り上げられた。

最後に、寺田教授は「+3」が本当にリーダーシップの役割を果せるかどうか、非常に大きな疑問であると指摘した。

討論において、添谷芳秀東アジア研究所長より、東アジア共同体を経済中心の機能的協力、政治的地域協力、究極的には安全保障をも含めた国際的共同体という三つの次元でも分析が可能でないかという指摘があった。また、「ASEAN+3」と「3+ASEAN」が政治的な意味合いを含めてどのようになるのかという添谷所長の質問に、寺田教授は、市場経済という経済的価値観を共有する機能主義のみで十分であると説いた。

フロアからは、ギリシャの経済問題が東アジア共同体の形成に影響を与えるのかという質問があげられた。これに対し、寺田教授は東アジアには、EUにはないCMIMなどの制度的措置が存在していると説明した。また、日韓の東アジア地域協力における競争的な側面について、日本の東アジア政策は如何なるものであるかとの質問に対しては、日韓のFTAは2004年に交渉が始まって以来進展がなく、中国、EUとのFTAにおいても日本は韓国より遅れている状況であると述べた。

 

※センターによる整理

 

 

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