◆プログラム
防衛大学校の倉田秀也教授を招き、「オバマ政権と北朝鮮核開発問題―ボスワース訪朝後の展望」と題して、第四回定例セミナーを開催した。倉田教授は、6者会談をブッシュ政権から引き継いだ「正」と「負」の遺産として位置づけ、オバマ政権の対応を展望した。「負」の遺産とは、6者会談の目的は北朝鮮の核開発を止めることであったにもかかわらず、核を開発する時間的な余裕を与えてしまったことであると指摘した。他方、北朝鮮が合意し、6者会談で採択された文書が三つもある現状を鑑みれば、北朝鮮核の問題解決のための有効な手段は6者会談しか存在し得ず、倉田教授は、それをブッシュ政権からの「正」の遺産だと位置付けた。それゆえ、オバマ政権は6者会談を受け継ぐが、その手段と運用の仕方は変化するであろうと展望した。
次に、倉田教授は6者会談の二つの機能と限界について論じた。本来であれば、北朝鮮の核問題は国連安全保障理事会で議論されるべきであったが、第二次核危機が始まった2002年から2006年まで北朝鮮核問題は安保理で一度も議論されていない。代わりに米朝中の3者会談が始まり、後に韓国と日本、ロシアが加わって6者会談が始まったが、これは地域レベルで核問題を議論する地域的集団安保協議として6者会談が始まったことを意味すると倉田教授は指摘した。そして、2005年9月19日に採択された6者会談の共同声明には、米朝国交正常化のために措置を取ることや日朝平壤宣言に基づいて日朝も国交を正常化すること、核による威嚇も侵略もしないこと、通常兵力による侵略もしないことなどが盛り込まれ、北朝鮮に安全の保証を与えた。倉田教授は、この合意文書の特徴について冷戦後北朝鮮が韓国、米国、日本を相手に約束はしたが、履行しなかった2国間の文書を多国間協議でもう一度確認したもので、この時点で6者の枠組みは非常に包括的なものであり、触媒としての役割を果たしていると論じた。この意味で6者会談は二つの機能を持っている。倉田教授はそれを北朝鮮の「内部化」と「外部化」だと定義した。北朝鮮の内部化とは、北朝鮮を協議の中に入れて北朝鮮と何かをすることを指す。他方、北朝鮮の外部化とは、北朝鮮を協議の外に置き、北朝鮮に対して強制手段を講じることを指す。今日までの状況をみると、6者会談は両方の機能を果たしていると倉田教授は指摘した。
次に倉田教授は、朝鮮半島の平和体制樹立の問題に触れ、核問題の脈絡で平和体制の問題が議論されていると指摘した。米朝枠組み合意と4者会談にみられるように、本来核拡散問題と平和体制樹立問題は別トラックであったが、6者会談で二つのトラックが融合するようになった。2007年の「2・13合意」では平和体制問題に関連して直接な関係者を主語とする「適当な別のフォーラム」が言及された。これは核問題と平和協定問題が強い関連性を持つようになったことを意味する。しかし、「2・13合意」後、平和体制樹立問題をめぐって、米国政府内で地域の特有性重視するリージョナリストと、普遍的な原則に従って北朝鮮の核問題にアプローチすべきだと主張する核不拡散局での軋轢が生じた。それゆえ、ヒル国防次官補は、上院外交委員会で「第3段階」の初期の段階で平和協定の問題を出してもよいと発言して朝鮮半島固有の問題として停戦協定問題を取り上げた。また2008年10月訪朝したヒルは、李賛福上将(朝鮮人民軍板門店代表部代表)と会見する動きを見せた。
倉田教授は次に、オバマ政権が北朝鮮と協議する用意があると伝えたにも関わらず、北朝鮮が挑発に出た理由として、金正日総書記の健康問題を指摘した。2012年に強盛大国の大門を開くという目標を考えると、6者会談の枠組みは遅いと考えられた可能性がある。北朝鮮が2009年4月14日の外務省声明で「6者会談には2度と参加しない」、また「自前の軽水炉発電所の建設を積極的に検討する」とウラン濃縮のことを暴露したこと、2009年6月13日の外務省声明で「新たに抽出されるプルトニウムの全量を兵器化する」、「核燃料保障のためのウラン濃縮の技術開発」、ひいては「試験段階に入った」と発表したことは、6者会談から米朝「核軍縮交渉」へ移行する意思が読み取れ、北朝鮮は今、米朝正面突破を試みていると考えられる。倉田教授はこのような北朝鮮の動きを、金正日の健康問題により軌道修正したからであり、クリントン元大統領の訪北から路線転換が見られたと論じた。北朝鮮はそれ以降も、朝鮮半島の非核化や米国との平和体制樹立問題を出して、米国と平和協定を締結しようとする意図を表した。2009年10月に中国の温家宝首相が訪朝した際には、朝鮮半島非核化を金日成の「遺訓」として取り上げるとともに、「朝米関係は敵対関係から平和関係に転換されなければならない」とその立場を明確に示したのである。
このような状況の中で、今回のボスワース訪朝は、6者会談から逆走している北朝鮮をもう一度、北朝鮮が核の放棄を約束した2005年9月19日の共同声明に戻そうとするものである。米国は、ボスワース訪朝について協議でもなければ、交渉でもないという立場をとっている。特に、クリントン国務長官は、米朝間の「予備的な対話」として位置づけている。今後開かれる会談では、6者会談の共同声明の中で両者の優先順位の高い議題から議論されると予想される。ただ、今までと違う点は、イランの核開発と関連して北朝鮮が暴露したウラン濃縮問題の処理と平和体制樹立の問題である。今後の展望について、倉田教授はまず、宣言的措置が優先される可能性を指摘した。米国側が朝鮮戦争の終結を「宣言」し、北朝鮮は核放棄を「宣言」する「言葉対言葉」の措置である。その次に、米国側が、平和体制樹立問題の中で重要な比重を占めている国連軍司令部を解体し、北朝鮮は核解体を行う「行動対行動」がとられる可能性である。最後に、倉田教授は、平和体制樹立問題に関連し、もう一つの「2012年問題」を提示した。2012年4月に戦時作戦統制権が米国から韓国に委譲されることが南北平和体制樹立において大きな節目になると倉田教授は指摘した。
討論において、小此木政夫センター長より韓国が提示したグランド・バーゲンとの関連性について、今後グランド・バーゲンが設定しているように一括妥結が出来ないのではないかという指摘があった。これに対し、倉田教授は、グランド・バーゲンは韓国発の一括妥結案であると前提した上で、6者会談で韓国が発言権を得ることを念頭に置いて、安全保障領域では通常兵力削減問題に触れていると指摘した。また、通常兵力削減問題は平和体制と合わせて進められる可能性があることにも言及した。
フロアからは平和体制樹立問題における参加国について質問が寄せられた。これに対し、倉田教授は、北朝鮮は制度的な側面から米朝間の排他的な協定しか考えていないが、軍事的な当事者としては韓国を認めていること踏まえると、在るべき姿としては、韓国と北朝鮮が「南北基本合意書」の第5条に盛り込んだように、主たる役割を果たして、後に米中が非対称的な形であっても加わるべきだと述べた。
※センターによる整理