実施報告
【セミナー】

2009.10.21第三回「日本の政権交代と日韓関係」(2009/10/21)

日 時2009年10月21日(水)
場 所慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール

 

◆プログラム

報 告 朴喆煕(ソウル大学教授)
討 論 小此木政夫(現代韓国研究センター長)
添谷芳秀(東アジア研究所長)
司 会 西野純也(現代韓国研究センター副センター長)

 

ソウル大学の朴喆煕教授を招き、「日本の政権交代と日韓関係」と題して、第三回定例セミナーを開催した。朴教授は、8月に行われた総選挙で民主党が政権交代を実現したことを革命的だと評した。まず、これまでのような自民党内部での政権交代とは異なり、政党間政権交代が現実化したことから、一党優位体制から二大政党中心型政治へ変わったと評価した。第二に、既存の外交安保中心の理念政治から生活政治への移行が見られた点を指摘した。第三に、民主党の勝利は一時的な現象ではないと主張した。朴教授は、1996年の小選挙区制度導入以後、小選挙区は二大政党が9割以上を占めるという二大政党化が進んでいる現状を選挙データを基に指摘した。特に、2005年の郵政選挙を例外と位置付け、2003年以降民主党が比例区で常に自民党の得票を上回ったことをあげ、今回の選挙での民主党の勝利は驚くに当たらないと分析した。この分析を土台に、民主党政権は長続きすると展望した。民主党は安定多数を維持するためにこれから4年間は解散しないと考えられること、2007年の参院選で自民党は34議席しか獲得できなかったこと、そして参院選の勝敗を左右する業界団体の影響力が弱まり民主党支持に回っていることをあげて、2010年の参院選でも民主党の勝利が予想されると指摘した。したがって来年7月以降はねじれ国会なしの比較的安定した政権になる可能性が高いと見られ、鳩山政権が崩れても民主党政権は続く可能性が高いと朴教授は予測した。

朴教授は次に、民主党に対する三つの幻想に反駁し、今後は民主党との長い付き合いを準備しなければならないと主張した。まず、民主党は分裂する可能性の高い不安定政党であるという幻想については、むしろ自民党の方が来年の参院選で負けた場合は分裂する可能性が高いと指摘し、民主党は少なくとも今後4年あるいは8年は政権政党を持続できると予想した。つぎに、民主党は社会党系労組が主導する左派政党であるという幻想については、前自民党系と保守系の新人が多くを占める中道保守であると主張した。そして、政策能力も経験もない政党であるということについては、これまで10年間官僚に頼らずに政策を作ってきた経験を持っていると指摘し、変化した現在の民主党を直視すべきだと論じた。

そして朴教授は、民主党政権のアジア外交への取り組みを評価した上で、日韓関係についての展望を行った。まず、あまり期待を高めずに冷静に見る必要があると述べた。現在、民主党は予算編成をはじめ国内の懸案事項やインド洋での給油問題、米軍基地移設問題などで忙殺され、本格的なアジア外交は始まってないからである。それゆえ問題発生防止の消極的戦略に留まっている。国家のアイデンティティに関する問題については、12月頃に予想される高校指導要領解説書の独島(竹島)記述問題や在日韓国人の地方参政権問題をどう扱うのかを見守るべきであると述べた。次に、民主党とのパイプがないと懸念している韓国の反応について触れ、すでに様々なパイプができていることを指摘した。民主党指導部が韓国に対して友好的な姿勢を取っていること、日韓フォーラムのメンバーが入閣して官邸に知韓派がいること、若手議員中心に日韓未来構想という会合で交流が続けられていることなどが挙げられた。それゆえパイプを問題視するよりは、いかに日韓関係を作っていくのかという点について戦略やアイデアが必要であるとの指摘がなされた。

最後に2010年問題については、問題の年というよりは、機会の年として位置付ける必要があると論じた。村山談話と小渕・金大中共同宣言を踏まえ、新しいヴィジョンを盛り込んだ21世紀型の新しい合意をつくる必要性を朴教授は指摘した。今後、日韓両政府は未来志向を共有して共同で具体的なものを作っていく必要があると述べた。

討論において、添谷所長は北朝鮮問題をめぐる急変事態が起こる場合、朝鮮半島問題が日本外交の重要課題になりかねないと指摘し、民主党政権は、米国との関係や中国との戦略的な関係の重要性だけではなく、韓国との関係を軸に様々なシナリオを準備していくべきであると論じた。そして、民主党政権が米国との対等性を求めながらアジア外交を展開しようとする発想の問題点を指摘した。米国からすると、日本が対等性を求めるのであれば、もっと大きな役割を求めるようになるからである。しかし、日本が出来ないと対応した場合、従来の従属の構図が再びクローズアップされかねないため、日本がアジアで自立戦略をもとめるのであれば、米国との非対称的な関係を所与のものとして、それを利用する形で何ができるかを議論すべきであると、添谷所長は主張した。最後に日本一国で何ができるかが議論の中心になっているが、韓国を重要なパトーナーとし、日本が構想を実現していく必要があると論じた。

小此木センター長は、今議論されているような形で2010年を日韓関係の未来を向けての機会として活用するのは不可能であるという考えを示した。天皇陛下の2010年訪韓を大統領から言い出していることは日韓のコミュニケーション・ギャップが起きていることを示している。日韓関係の改善や2010年を乗り切るために天皇陛下を韓国に送ることは、政治利用として批判されかねない。一方、在日韓国人の地方参政権問題や歴史認識の問題は着手できる事項であると述べた。特に在日韓国人に地方参政権を与えることは、すでに10年前、最高裁の判決が出ており、判例は地方分権と歴史との観点に立っているのでそれを政治的な決断で実行すればいいはずであると主張した。しかも、戦前から日本に在住する永住者に選挙権を与えることなので、これによって対馬をとられるという日本の懸念は実際には起こらないと、小此木センター長は指摘した。

一般の参加者からは、自民党の再生方法や今後日本政治の対立軸、そして韓国での東アジア共同体に対する見解など、様々な質問が寄せられて活発な議論が行われた。特に自民党の再生方法について朴教授は、第一に、政策に詳しい自民党の中堅議員を中心に国会での論戦に臨み、政策論争を広げる必要がある、第二に、若手を育てる必要があると指摘した。落選した前議員だけではなく、新しい顔ぶれを揃えるように都市部の政策を充実すべきであることも述べた。添谷所長は、民主党政権が計画しているアフガニスタンでの職業訓練所支援を日韓で出来ないだろうかという問題提起を行った。日韓の共同提案として国連の参加を得られれば案外動く可能性があると予測した。また、日豪の非伝統的な部分での安保協力をモデルに日韓の間でも国連PKOや災難救助訓練などを共同で行えば良いのではないかという提案が出された。

 

※センターによる整理

 

 

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