慶應義塾大学現代韓国研究センターは、2009年2月に韓国国際交流財団、国際交流基金(日本)の支援を受けて開所記念シンポジウムを行って以来、持続的に研究プロジェクト、シンポジウム、セミナー、研究会を開催してきており、本年で活動8年目を迎えました。これまで、日本における朝鮮半島研究の拠点のひとつを形成する、日韓間に学術研究交流のための知的コミュニティーを形成する、との目標を着実に実現してきたと自負しています。
2016年4月より現代韓国研究センター長の重責を引き受けましたが、センター設立以来、副センター長としてプロジェクトの企画、運営を担ってきましたので、これからも引き続きセンターのさらなる発展に努めていく所存です。今後は、センター長として、韓国をはじめ海外で慶應義塾大学現代韓国研究センターの活動をより積極的に広報するとともに、国際的共同研究プロジェクトを通じて海外の朝鮮半島研究者や研究機関とのネットワークの構築を進めていきたいと考えています。
まず第1に、朝鮮半島研究の伝統があります。慶應義塾大学は、1858年に創立された150年以上の歴史をもつ伝統ある教育・研究機関です。慶應義塾は設立当初から、朝鮮半島からの留学生を数多く受けいれるなど、韓国・朝鮮と深い関係を結んできましたし、朝鮮半島や中国など東アジア研究の分野で高い評価を受けてきました。現在は、東アジア研究所の中に、現代韓国研究センターと現代中国研究センターを併設して、朝鮮半島を含む東アジア地域を包括的かつ深く掘り下げて研究する体制を整えています。
第2に、学術的な関心はもちろん、現在の朝鮮半島が抱えるさまざまな現代的課題について高い問題意識を持って研究活動を行ってきました。当センターではこれまで、韓国の政治・社会問題、北朝鮮の政治体制や核開発問題、東アジアの安全保障などに関して、国内外の研究者が参加する国際共同研究プロジェクトを実施してきました。その主要研究成果は、『転換期の東アジアと北朝鮮問題』、『韓国の少子高齢化と格差社会』、『日韓政治制度比較』という学術書籍にまとめ出版しました。
第3に、主要研究領域として、政治・外交、国際関係、経済・経営、社会・文化を取り上げ、社会科学的方法による研究を行ってきました。従来、日本の朝鮮半島研究が得意としてきた、言語や歴史といった人文系分野の研究蓄積を活用しつつ、現代的な課題を社会科学的アプローチによって分析しています。
第4に、朝鮮半島が「分断国家」であり「停戦協定体制」にあるという現実認識から出発する必要性を常に念頭において研究活動を行っています。朝鮮半島の現代的課題、特に政治、外交、安保問題を理解するためには、韓国だけでなく北朝鮮に対する分析が不可欠だからです。当センター設立以前から、慶應義塾大学では、冷戦下のイデオロギー対立の中で研究が容易ではなかった北朝鮮の政治・社会体制の研究に早くから取り組み、成果を上げてきました。現在は、北朝鮮核問題など朝鮮半島を取り巻く国際関係の解明にも力を入れています。
第5に、慶應義塾大学現代韓国研究センターは、朝鮮半島研究の「開かれた拠点」となっています。慶應義塾だけでなく、広く国内外の研究・教育機関と提携して、国際的な学術交流と研究協力のためのネットワークを構築しています。また、社会的にも開かれたセンターとして、公開シンポジウム、セミナー、研究会を数多く実施してきました。これからも引き続き、開かれたセンターとして多くの方々に関心を持ってもらえる存在となるよう努めてまいります。
日本の朝鮮半島研究は、世界の中でもきわめて研究の質が高いと考えています。ただ、多くの研究成果は日本語で発表されており、海外への発信力が十分であったとはいえません。今後は、日本語だけでなく、韓国語・朝鮮語、さらには英語による研究の実施と成果発表をより意識的に行っていくことが望ましいでしょう。また、国際共同研究プロジェクトを積極的に組織し、海外研究者とのネットワークを構築しながら、その中で研究成果をアピールしていくことも必要です。当センターは、日本だけでなく世界における朝鮮半島研究の拠点のひとつとして、研究活動やその成果を広く発信していきます。
2016年秋から、当センターは韓国国際国流財団と共に、「日韓未来ビジョン協力プロジェクト」を実施します。日韓両国が抱える共通課題(東アジア地域安全保障、高齢化や格差などの社会・経済問題など)を専攻する両国の研究者間のネットワーク構築を通じて、相互理解を深め、日韓協力の新しい形を提示することを目指します。2015年に日韓国交正常化50周年を迎えたことを踏まえ、日韓関係の持続可能な発展のための学術的、政策的基盤をより確かなものにすべきべきであるとの点で、韓国国際交流財団と認識を共にしました。当センターは日韓学術交流の拠点として、このプロジェクトの実施を通じて日韓の知的コミュニティー形成を一層進め、これまでのセンターの取り組みをより実りあるものにしていきます。これまで以上に、当センターへのご関心と暖かいご支援をいただけますよう、よろしくお願い申し上げます。
※2016年8月に行われた韓国国際交流財団とのインタビューをもとに構成。韓国語版要旨は『KF NEWLETTER』2016年9月号に掲載された。