センター紹介
【センター長挨拶】

2011.04.01センター長挨拶・添谷芳秀(2011年4月1日)

この度、小此木政夫初代センター長(現慶應義塾大学名誉教授)の後を継ぐことになりました。前任者が偉大すぎるために、重荷を通り越して一種あきらめの境地に立った心境です。ましてや、韓国・朝鮮研究の専門家ではありませんので、いい意味で開き直って、この重責を果たさせていただく所存です。

しかし同時に、何らかの因果を感じないわけではありません。もう30年以上も前のことになりますが、大学学部時代の卒業論文のテーマは「朝鮮半島の分断をもたらした要因の考察」でした。そのころ初めてハングル文字を学び、戒厳令下の韓国へ一人旅にでかけたりもしました。大学院の修士論文では、「アメリカの朝鮮政策―1945〜1950」と題する研究に取り組みました。その後米国のミシガン大学に留学した際には、中国の朝鮮戦争への介入に関する研究で有名なアレン・ホワイティング教授の下で、朝鮮半島をめぐる国際政治について研究を深めるつもりでした(その後紆余曲折を経て、日本の対中外交の研究で博士号を取得することになりましたが・・・)。

慶應義塾大学に奉職してから、そろそろ25年になろうとしています。慶應義塾の創始者福澤諭吉先生が義塾の興隆期に注目されたのが朝鮮半島であり、日韓連携を望みその開明派の知識人と知的な交流を深められたことは周知のとおりです。開国後の世界の荒波にもまれる当時の日本にとって、朝鮮半島が最も重要な地域として立ち現われたことはむしろ当然でした。そして、今再び、福澤先生が築かれた慶應義塾の伝統に導かれているように感じます。

今や日韓両国は、実質的に対等なパートナーです。朝鮮半島の将来、そして台頭する中国を軸とする東アジアの国際秩序の姿は、日韓関係の在り方によって決定的に左右されることになるはずです。日本にとっても、そして韓国にとっても、今後の外交戦略は、日韓関係を基軸にした体系を備えるべきであるとすら考えます。しばしば両国関係発展の障害となる歴史問題に関する研究と対話も、そうした未来像を起点にした発想に立った新しいアプローチを必要としているともいえそうです。

前任の小此木政夫センター長の卓越したご指導により、当センターは日韓学術交流の拠点となり、日韓間の知的コミュニティーの形成を促進してきました。今後もその努力を継続するとともに、とりわけ、日韓を軸とした第三国や他地域との共同研究と対話の拡大に力を入れたいと考えています。引き続き、厳しいご指導と暖かいご支援のほどよろしくお願い申し上げます。