2013.11.06第一六回定例セミナー「日韓経済の現状と両国関係の展望」

テーマ:日韓経済の現状と両国関係の展望

報 告:奥田聡(亜細亜大学アジア研究所)

司会.討論:西野純也(慶應義塾大学)

日 時:2013年10月8日(火) 午後5:30-7:00

場 所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館6階G-SEC Lab

 

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 奥田聡教授を招き、「日韓経済の現状と両国関係の展望」と題するセミナーを開催した。

 最近の日韓関係は、政治の側面で非常にぎくしゃくしているだけに、経済分野に関しても競争の側面が強調されている。セミナーの目的は、日本と韓国それぞれの経済状況を考察したし、通説とは異なる両国経済関係の姿に焦点を当て、その強硬さを明らかにすることであった。

 報告は最近の日韓経済に対する分析から始まった。奥田教授は、日本経済の現状について、安部政権の積極的な財政政策が効果を挙げていると評価した。大手企業だけではなく、中小企業にも好調が波及していることは注目に値する。しかし、安部政権の経済政策に対し、賛否世論が多く、課題が残されていることも指摘せざるをえない。奥田教授は、日本の主力企業は、国内経済について確信を持たず、状況を見極めている現状を取り上げた。また、消費の増加は、富裕層を中心に進んでおり、まだ所得増加の余波は一般のレベルにまで広がっていないことを課題として挙げた。                                                   それでは、韓国経済はどうであろうか。奥田教授は、円安傾向によって、韓国の輸出産業が大きな打撃を受けたと強調した。韓国経済は、輸出がGDPの半分を占めており、ウォン安を誘導することによって、日本製品に対する価額競争力を確保していた。しかし、最近の円安によって対日価額優位の構造が消失したのである。奥田教授は、為替相場が不利な方向に変動することによって、韓国経済が受けた打撃は日本の想像以上のものであると主張した。 

 続いて、奥田教授が焦点を当てたのは、韓国経済の低成長基調であった。韓国の家計負債は膨張しつつ、経済的弱者の苦境は深まっている。注目すべきなのは、以前の経済危機は、IMP金融危機、リーマンショックのように外部要因によるものであったが、最近の低成長に対する明確な理由は未だに把握できていない点である。奥田教授は、韓国では自国の経済構造そのものに対する懸念の声が上10.8. second.JPGがっているとし、それが朴槿恵政権の経済政策に対する低評価が広がっていると述べた。 

 次に、奥田教授が取り上げたテーマは、日韓両国の共通点であった。奥田教授は、両国共に余裕がないと述べた。日本の場合、相変わらず、内需不振を完全に挽回していない状況であり、物作りの過大供給である。韓国も内需不振と低成長への懸念に苛まれて、対日競争力を相殺したアベノミックスに対する批判の声は日増しに激しくなっている。そして、両国共に高齢化、格差社会、内需不振を抱えており、それらを挽回できる成長動力も不在している。奥田教授によると、経済、社会の困窮を強いられるあまり、両国共に、ストレス耐性が低下し、過激なナショナリズムが高揚しているという。

 このように悪化一路の日韓関係であるが、奥田教授が強く強調したのは、相互依存の経済関係に大きな問題は見られない点であった。歴史問題が目立ち、現在の韓国政権の対日姿勢は厳しい一方で、政治問題の余波が経済領域に及んでいないのである。日本の対韓黒字は日本経済に恩恵を与えており、両国間の産業内貿易は増加している。つまり、両国経済の結びつきは依然として強く、相互依存がより深化しているのである。こうした分析の上、奥田教授は、相互理解を深めつつ、日韓の共同アプローチの必要性を提言した。 

*センターによる整理