2014.04.03シンポジウム「東アジア情勢と朝鮮半島」

 

テーマ:「東アジア情勢と朝鮮半島」  

日   時2014319() 14:001745 

場   所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館6GSEC-Lab

言   語:日韓同時通訳

 

 

 韓国から専門家を招き、「東アジア情勢と朝鮮半島」と題するシンポジウムを開催した。シンポジウムの趣旨は、東アジア情勢の観点から韓国外交及び北朝鮮問題を検討し、その展望を論じることであった。

第一セッションのテーマは、日韓、中韓関係であった。前者を担当した西野純也教授は、まず、朴槿恵政権の性格を分析することから報告を始めた。西野教授によれば、朴大統領は、国民とのコミュニケーションより原則を重視する政治スタイルを見せている。また、任期の初めの頃から新政体制を築き、大統領中心の意思決定過程を強化しており、こうした原則重視の新生体制は、対日政策に反映されている。

IMG_0933.JPG次に、

西野教授は、朴槿恵政権の対日政策の規定要因として以下の三つを挙げた。第一に、李明博政権の「不の遺産」である。韓国の憲法裁判所の決定により、慰安婦問題が焦点になってから日韓対立は厳しさを増している。西野教授は、朴槿恵政権も慰安婦問題を最重要課題として認識し、誠意のある対応を日本に求めていると述べた。第二に、中国の台頭という国際システムレベルでの変化である。韓国の対外政策における中国の存在感が、強まっていく中で、朴槿恵政権は、中国との戦略関係の構築に力を注いでいる。西野教授は、そうした韓中関係の発展に比べて、日韓関係は相対的に遅れている感を秘めないよ論じた。第三に、韓国国内における保守進歩対立である。進歩勢力が主要政治勢力として定着し、韓国現代史の中で、朴正熙時代をいかに評価すべきかをめぐって論争が厳しくなっている。その中で対日関係はもっとも敏感なテーマであるため、韓国政府が性急に対日関係の改善を図ると国内の反発を引き起こす恐れがある。こうした分析の上、西野教授は、歴史問題の形で現れている日韓関係の悪化は、以上の要因が複合的に作用した結果であると述べた。 

 次に、白宇烈教授は、中韓関係の現状と両国関係における日本要因について報告した。白教授は、中韓関係の持続的発展の背景には、両国の経済関係の相互依存が深まっていくと同時に、中国の台頭によるパワーバランスの変化があると分析した。白教授が、注目すべきなのは、日本の攻勢的な外交政策をとるにつれ、この2年間の急激に接近している点である。白教授は、韓国と中国は政治、軍事的な側面では共通の戦線を持っていなかったが、安部政権の攻勢的な対アジア政策に対し、韓国と中国が共通の政治協力の場を見つけたと述べた。

 ところが、忘れてはいけないのは、韓中関係の接近は、表面的なものである点である。白教授は、日本内では韓国が軍事的にも中国との距離を縮めているとの議論もあるが、それは行き過ぎであると強調した。韓国と中国は、北朝鮮問題と朝鮮半島の統一問題をめぐって根本的な葛藤構造を抱いているかたである。朝鮮半島の分断構図が残存する限り、韓国の対外政策の軸は、アメリカとの同盟であり、日本との間接的な安保協力である。こうした分析の上、白教授は、日本は中韓関係の表面的、根本的な側面を捉えつつ、韓国との政治、軍事協力を模索する必要があると提言した。 

 金根植教授の報告テーマは、張成沢処刑と金正恩体制に対する政治的考察であった。金教授は、張成沢処刑の理由として次の三つを挙げた。第一に、金正恩個人の権力強化である。金正恩は、世襲権力の限界を乗り越えるために、党政軍で金正日の影を消す必要があった。第二に、支配エリートの対立である。血統で繋がる権力エリートと後継体制に寄与したエリートの間で葛藤があり、張成沢処刑は、その文脈に置かれている。第三に、利権葛藤である。有力説としては、水産事業所の漁業権をめぐって、エIMG_0937.JPGリート同士の間で衝突があったと言われる。

次に、金教授は、金正恩体制について、恐怖政治で個人権力の安定性は強化されたものの、体制次元の不安定性は大きくなったと述べた。そして、第二に、新しい実践イデオロギーを提示して、以前の時代と差別化を図ると主張した。国際政治においては、G2として浮上した中国のバックアップをもってアメリカと中国の間で安全を最大確保し、韓国と中国の間で経済支援を最大確保しようとしていると論じた。

 最後に、金教授は、金正恩体制の展望を述べた。金教授は、北朝鮮は核、ミサイル能力及び経済関係の好転が体制の不安定をもたらす可能性があると述べた。金教授によれば、状況が好転することによって自身を持つ余り、無謀な政策を取る可能性があるからである。

 続いて、黄智煥教授は、北朝鮮の核外交と米朝関係について、報告を行った。報告の趣旨は、金正恩体制の登場と北朝鮮の戦略評価を再解釈し、北朝鮮の戦略的思考に対するパズルのピースを合わせることであった。

黄教授は、金正恩体制の対外政策を三つの時期に分けて分析した。第一に、20117月から20126月まで2.29米朝合意とロケット発射を並行した時期である。両方とも金正日の遺訓であったからと思われる。第二に、20127月から20135月まで核政策の再検討と危機醸成戦略を駆使した時期である。この時期、北朝鮮は対外的には、核とミサイルの結合能力を誇示して今後の米朝交渉及び6者協議で要求条件を高めようとした。第三に、20135月から現在まで交渉戦略へ転換を試みる時期である。北朝鮮の戦略修正の理由は、危機醸成戦略ではこれ以上獲得できる利益がないと判断したためである。

最後に、黄教授は、今後の北朝鮮の交渉戦略について分析した。黄教授は、イシューの中心を段階的に拡大し、交渉のフレームを攻勢的に変化させていく姿勢を見せると予想した。そして、核能力を誇示して緊張を高めながらも、交渉戦略を模索すると論じた。体制の長期的な安定性の観点から人民経済を発展させるべく、そのためには、対外環境を改善して外国から資本を導入する必要があるからである。

 

*センターによる整理