テーマ:「韓国海軍哨戒艦沈没事件と北朝鮮」 報告:伊豆見元(静岡県立大学教授) 討論:小此木政夫(現代韓国研究センター長) 司会:西野純也(同副センター長) 日時:2010年5月17日(月) 午後5:30~7:00 場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館6階G-SEC LAB 静岡県立大学の伊豆見元教授を招き、「韓国海軍哨戒艦沈没事件と北朝鮮」と題して、第五回定例セミナーを開催した。 伊豆見教授は、今回の韓国海軍哨戒艦事件は、北朝鮮の関与が濃厚であり、その証拠は入手しやすいはずであると指摘した。失うものが多いにもかかわらず、なぜ北朝鮮はこのような事件を起こしたのかという疑問も出るが、北朝鮮の論理で考えれば成り立つと述べた。まず、六カ国協議も米朝協議も暫く開催されないことを視野に入れ、北朝鮮は、他のことをやって良いと判断したと指摘した。北朝鮮が3月29日付の朝鮮中央通信の評論で、「オバマ政権の立場は北朝鮮に応じる余裕がない。11月に中間選挙があり、北朝鮮に弱い行為、即ち関与政策をとることはできない」と、米国の情勢分析を行ったことを挙げ、伊豆見教授はこのような対外分析は正しいと主張した。そして、次に、北朝鮮が経済的に困窮していることを考慮すると、援助が必要な時にこのような事件を起こせば、一層経済的に窮乏してしまうのではないかという観測もあるが、北朝鮮は経済的に窮迫しているわけではない、と指摘した。その理由として、中朝関係が昨年後半に改善し、中国から表に出ている以上の援助があったためであることが挙げられた。伊豆見教授は、北朝鮮が経済的に困窮しているわけではないため、韓国に手を出せると分析した。 北朝鮮が今回の事件を起こした理由について、伊豆見教授は、以下の三点を取り上げた。まず、韓国に対する抑止力を持ちたいという点である。昨年11月の銃撃戦での北朝鮮の惨敗や今年1月のキムテヨン国防部長の発言などは、北朝鮮に対韓抑止力が効かないことへの不安感を募らせることになり、ついに北朝鮮は韓国に対する抑止力を意識するようになったと論じた。次に、北朝鮮は昨年8月から、韓国への意識を変え、南北サミットを提案するなど一方的な譲歩を示したが、韓国は前提条件をつけるなど、北朝鮮に対して更なる譲歩を要求した点である。金総書記の面子がつぶされた報復を、今回の事件を通じて北朝鮮が行ったと考えてもおかしくないと、伊豆見教授は分析した。さらに、金総書記が軍をコントロールできていないという憶測も可能であると指摘した。 今回の沈没事件に対する制裁に対しては、5月20日に調査結果が発表され、それなりの制裁が行われても、まず軍事的な報復はしないだろうと、分析した。経済制裁は有効ではあるが、経済制裁により南北間の交易がストップする場合、韓国も相当な打撃を受けざるを得ないであろう。そのため、国連安保理にかけるということになるが、決議や議長声明は厳しく、報道声明も難しいのではないかと、伊豆見教授は指摘した。その理由として、今回の金総書記の訪中の最大の目的がこの事案の処理であり、今回の中朝首脳会談の声明で、「北東アジアの平和と安定が共通の利益」という文言が入ったことから、中国がこの事件を穏便に済まそうとしている点が挙げられた。そして、海軍出身のキムイルチョルを解任したことは、韓国に対するメッセージであり、慶州で行われた日中韓外相会談の日程に合わせたものであるかもしれないと、指摘した。 しかし、米国が北朝鮮をテロ支援国家に再指定した場合、北朝鮮は激怒し、米国に対して核抑止力を強化するのではないかと、伊豆見教授は分析した。即ち、ミサイル実験か核実験をするとの見方があるが、ミサイル実験の場合、飛距離を伸ばさねばならず、成功するかどうか分からない。しかし、核実験は3回すると小型化に成功するのではないか、弾頭化されてしまうと困ると、指摘した。最後に、伊豆見教授は、11月の中間選挙まで、米朝協議も六カ国協議もないということは間違いないと論じた。他方、今回の事件について、北朝鮮から韓国に対し「遺憾」程度の言葉が発せられるか注目されていると指摘した。 討論において、小此木政夫センター長より、今回の事件は謎の多い事件で、中国は安保理で慎重姿勢を取るのではないか、オバマ政権の今後の対応はどうなるかという質問があった。これに対し、伊豆見教授は、中国の慎重姿勢は胡錦涛体制の2012年まで変わらないし、オバマ政権は北朝鮮がよほどひどいことをしない限り忍耐の姿勢を続ける意思を持っているため、日韓の対応が極めて重要になると指摘した。 フロアからは哨戒艦沈没事件と北朝鮮の後継者問題との関わり、韓国地方選挙への影響などについて質問が寄せられたが、伊豆見教授は、今回の事件は後継問題とは無関係であり、また地方選挙への影響も少ないのではないかと述べた。 ※センターによる整理
テーマ:「韓国海軍哨戒艦沈没事件と北朝鮮」
報告:伊豆見元(静岡県立大学教授)
討論:小此木政夫(現代韓国研究センター長)
司会:西野純也(同副センター長)
日時:2010年5月17日(月) 午後5:30~7:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 東館6階G-SEC LAB
静岡県立大学の伊豆見元教授を招き、「韓国海軍哨戒艦沈没事件と北朝鮮」と題して、第五回定例セミナーを開催した。
伊豆見教授は、今回の韓国海軍哨戒艦事件は、北朝鮮の関与が濃厚であり、その証拠は入手しやすいはずであると指摘した。失うものが多いにもかかわらず、なぜ北朝鮮はこのような事件を起こしたのかという疑問も出るが、北朝鮮の論理で考えれば成り立つと述べた。まず、六カ国協議も米朝協議も暫く開催されないことを視野に入れ、北朝鮮は、他のことをやって良いと判断したと指摘した。北朝鮮が3月29日付の朝鮮中央通信の評論で、「オバマ政権の立場は北朝鮮に応じる余裕がない。11月に中間選挙があり、北朝鮮に弱い行為、即ち関与政策をとることはできない」と、米国の情勢分析を行ったことを挙げ、伊豆見教授はこのような対外分析は正しいと主張した。そして、次に、北朝鮮が経済的に困窮していることを考慮すると、援助が必要な時にこのような事件を起こせば、一層経済的に窮乏してしまうのではないかという観測もあるが、北朝鮮は経済的に窮迫しているわけではない、と指摘した。その理由として、中朝関係が昨年後半に改善し、中国から表に出ている以上の援助があったためであることが挙げられた。伊豆見教授は、北朝鮮が経済的に困窮しているわけではないため、韓国に手を出せると分析した。
北朝鮮が今回の事件を起こした理由について、伊豆見教授は、以下の三点を取り上げた。まず、韓国に対する抑止力を持ちたいという点である。昨年11月の銃撃戦での北朝鮮の惨敗や今年1月のキムテヨン国防部長の発言などは、北朝鮮に対韓抑止力が効かないことへの不安感を募らせることになり、ついに北朝鮮は韓国に対する抑止力を意識するようになったと論じた。次に、北朝鮮は昨年8月から、韓国への意識を変え、南北サミットを提案するなど一方的な譲歩を示したが、韓国は前提条件をつけるなど、北朝鮮に対して更なる譲歩を要求した点である。金総書記の面子がつぶされた報復を、今回の事件を通じて北朝鮮が行ったと考えてもおかしくないと、伊豆見教授は分析した。さらに、金総書記が軍をコントロールできていないという憶測も可能であると指摘した。
今回の沈没事件に対する制裁に対しては、5月20日に調査結果が発表され、それなりの制裁が行われても、まず軍事的な報復はしないだろうと、分析した。経済制裁は有効ではあるが、経済制裁により南北間の交易がストップする場合、韓国も相当な打撃を受けざるを得ないであろう。そのため、国連安保理にかけるということになるが、決議や議長声明は厳しく、報道声明も難しいのではないかと、伊豆見教授は指摘した。その理由として、今回の金総書記の訪中の最大の目的がこの事案の処理であり、今回の中朝首脳会談の声明で、「北東アジアの平和と安定が共通の利益」という文言が入ったことから、中国がこの事件を穏便に済まそうとしている点が挙げられた。そして、海軍出身のキムイルチョルを解任したことは、韓国に対するメッセージであり、慶州で行われた日中韓外相会談の日程に合わせたものであるかもしれないと、指摘した。
しかし、米国が北朝鮮をテロ支援国家に再指定した場合、北朝鮮は激怒し、米国に対して核抑止力を強化するのではないかと、伊豆見教授は分析した。即ち、ミサイル実験か核実験をするとの見方があるが、ミサイル実験の場合、飛距離を伸ばさねばならず、成功するかどうか分からない。しかし、核実験は3回すると小型化に成功するのではないか、弾頭化されてしまうと困ると、指摘した。最後に、伊豆見教授は、11月の中間選挙まで、米朝協議も六カ国協議もないということは間違いないと論じた。他方、今回の事件について、北朝鮮から韓国に対し「遺憾」程度の言葉が発せられるか注目されていると指摘した。
討論において、小此木政夫センター長より、今回の事件は謎の多い事件で、中国は安保理で慎重姿勢を取るのではないか、オバマ政権の今後の対応はどうなるかという質問があった。これに対し、伊豆見教授は、中国の慎重姿勢は胡錦涛体制の2012年まで変わらないし、オバマ政権は北朝鮮がよほどひどいことをしない限り忍耐の姿勢を続ける意思を持っているため、日韓の対応が極めて重要になると指摘した。
フロアからは哨戒艦沈没事件と北朝鮮の後継者問題との関わり、韓国地方選挙への影響などについて質問が寄せられたが、伊豆見教授は、今回の事件は後継問題とは無関係であり、また地方選挙への影響も少ないのではないかと述べた。
※センターによる整理